2025アムール・デュ・ショコラオリジナルストーリーカカオの妖精とチョコレートの森

「あんな風に、無邪気に楽しめたらな…」ある日私は、窓から見える公園を眺めていた。キャッキャと笑い声を上げて、走り回る子どもたちがいる。ふーっと一息ついて振り返ると、突然、声が聞こえた。「やあ!僕らのチョコレートの森へようこそ!」手に杖を持った妖精が木の枝に腰掛けて、微笑んでいる。私はびっくりして見回すと、そこはまるでおとぎ話のような森になっていた。木々はすべてチョコレートでできており、カラフルなチョコレート菓子の実が、そこかしこになっている。地面には様々な大きさのトリュフが転がり、葉や草もチョコレートでコーティングされて、あたり一面に甘いカカオの香りが漂っていた。「え?どういうこと?」驚いて声を上げると、「僕はカカオの妖精なんだ。ねえ、見てて!」妖精が杖を振ると、空中にキラキラとカカオの粉が舞い、ボンボン・ショコラに降りかかるとそこに美しい模様が現れる。次に、地面のトリュフがふわりと空中に浮かんで回転し、様々なフレーバーのコーティングがされていく。「すごい!」私は思わず叫んだ。気がつくと、ほかの妖精たちも集まってきている。「僕の仲間たちだよ。僕らはこの森をもっともっと新しいチョコレートでいっぱいにして、感動と喜びを増やしたいんだ!僕たちに君のアイデアを貸してくれない?」妖精の言葉に、私は少し戸惑ったが、すぐにワクワクしてきた。「ええ、やってみたい!…そうね、例えばこんなのはどう?野に咲く小さな花のように繊細で可憐だけど、口に入れるとやさしさがいっぱいに広がって、心が温かくなるような…」「すごくいいね!やってみよう!」妖精は魔法の杖を振り、空中にカカオの豆を浮かび上がらせる。その豆は粉々になり、香り高いカカオパウダーに変わった。妖精たちが杖を振るたびに、空中には様々な色のキラキラと輝く星屑が舞い、まるで夜空の花火のように美しい光景が広がる。その光の粒が徐々に集まって、やがて花の形をした小さなひと粒のかたまりとなり、私の目の前でぴたりと止まった。私はそれを手に取り、口にする。驚く程繊細な香りの中に、やさしい甘さが広がり、うっとりととろけていく。「このチョコレート、本当に心が温かくなる!」私は続けて提案した。「甘酸っぱいフルーツを感じさせる、すっきりとしていて、心が躍るようなチョコはどう?」妖精はすぐに、森のリスや小鳥たちに声をかける。すると彼らはいちごやベリーなどを妖精たちの元に運んできた。妖精たちが杖の先を空中で合わせると、丸い光が浮かび上がり、その中でベリーがくるくると回り出した。妖精の1人が杖を差し出し、白い光でベリーを包むと少しずつ小さくなり、その中心に赤やピンクの粒々が入った、ハート型の白いチョコレートが残った。私はドキドキしながらそれを口にすると、ホワイトチョコレートのさっぱりとした甘さと、ベリーの甘酸っぱさが交互に口の中で広がった。「まるで豊かなメロディ。心をワクワクさせてくれる!」「ほかにアイデアはない?」妖精の言葉に、私は少し考えてから言った。「小さい頃に食べたキャラメルの甘さに、もう少し大人っぽい苦みもある、新しい味を試してみたい…」「オーケー!」妖精が杖を細かく小刻みに振ると、ボッと炎が現れた。ほかの妖精が杖の先からキラキラとざらめを降らせ、霧のように細かな水を吹きかける。それを杖でかき混ぜると、あたり一面にキャラメルの香ばしい香りが広がった。最後に妖精たちが杖をサッと上に向けて振ると、ゆっくりと一粒のチョコレートが降りてきた。私はゆっくりと口に含むと、静かに目を閉じた。口元に笑みがこぼれる。キャラメルの香りに、天真爛漫で何も悩みのなかった、幼かった頃の自分を思い出していた。やがてキャラメルとカカオが放つ香ばしさが口に広がった。「最近、子どもの頃に戻りたいって思うの…」私は心の中の気持ちを思い切って言ってみた。「ずっとここで、あなたたちとチョコレートをつくって暮らしたい…」妖精は私の手を取って言った。「素敵なアイデアを、たくさん出してくれてありがとう!でもね、君は元の世界に戻らないと…」私は説得したいと思ったが、同時にそれが無理なことも、どこかでわかっていた。妖精の目が私をやさしく見つめる。「今日、君の感じたワクワクや感動、提案してくれたアイデア、全部最初から君の中にあったから生まれたんだよ。君はそのままで、今のままで完璧なんだ。自分の中にあるものを信じて、もう一度君の世界を眺めてごらん」妖精たちは、ふんわりと私を包むように囲んだ。「さあ、目を閉じて…」その言葉に従い、私は目を閉じた。それから目を開けると、もう元の部屋に戻っていた。「まだ、あのチョコレートの味が口に残ってる」私は妖精の言葉を思い出しながら、窓から公園を眺めた。木々も風も鳥の声もなぜかとても新鮮で、全てがキラキラと輝いているように見えた。ふと、ポケットに何かが入っているのに気づいた。何だろうと出してみると、それは小さな可愛らしい箱だった。「いつの間に…」そっと箱を開けると、私が提案した3つのチョコレートが並んでいた。ふわっと温かい風が心の中に吹き込み、私はやわらかく微笑んだ。

■メインビジュアル

イラストレーター 近藤 達弥Tatsuya KONDO

雑誌や広告、ウェブ・音楽関連などの幅広い業界でイラストレーションやデザインを手掛ける。カラフルでポップな食べ物や動物、繊細な植物画や風景画など、多彩なタッチと独創的な構図が魅力。

■オリジナルストーリー

絵本作家さとう めぐみMegumi SATO

食べ物や動物をモチーフに、日本画表現と絵本創作を続ける。代表作『まじょのほうき』 『レモンちゃん』のほか、『ケーキちゃん』をはじめとしたスウィーツなどテーマ別のシリーズが多彩で、そのファンタジーな世界と個性的なストーリー展開が人気。